僕とクリスは教会の中庭にあるベンチに腰掛けた。
「クリス、昨日は大人気ないことを言って悪かった。マークが急にここを離れた理由は誰も知らなくて、ちょっとショックだった。それに彼がゲイだなんて知らなかったんだ…」
「いいんだ、気にしないでくれ。君もびっくりしただろう。ここは環境がいいし、マークはいずれメリーランドに戻った方がいいのかもしれない」
クリスは若く見えるが20代後半くらいなのだろうか。雰囲気に落ち着きが感じられた。
「マークとはどうやって知り合ったんだ」
「5月にマークがヨーロッパで演奏旅行をした時に偶然知り合った。そこで熱心に口説かれてね」
そういえば、マークが移籍を決めたのは演奏旅行の直後だった。
「マークと知り合うまでは男に興味はなかった。今でも彼以外の男と付き合うことは考えられない」
そう言うとクリスは照れたような笑いを浮かべた。よほどマークに大事にされているのだろう。
「男に言い寄られて、怖くなかったか」
「最初はびっくりしたけど、性別よりもハートの問題だと気付いてからはあまり抵抗がなくなった。ゲイとして生きていくこと自体は色々大変だけど」
彼は彼なりに結構苦労しているのかもしれない。それにマークは気さくだが、わがままで気難しい部分もある。いわゆる芸術家肌の彼についていくのは大変だろう。
(クリスにマイケルとのことを聞いてみようか?)
男の恋人がいるならば、ひょっとして何か思うところがあるかもしれない。
「同性の親友が恋人に変わることってあると思うか」
昨日一晩マイケルとの関係を考えていたが、親友としてのマイケルしか考えられなかった。
「恋人になったとしても、一番大事なのは信頼関係だろう。親友としてお互いに尊敬できる間柄なら、恋人としても理想的じゃないかな。ただ。関係を変えるのには勇気と努力がいるだろうね」
「そうか。変なこと聞いて悪かった。忘れてくれ」
マイケルは男だし、どう考えても友達にしか思えない。彼との友情を壊すのは嫌だったが、もう今までのように彼に接することはできないだろう。
それから僕は一階でしばらくマークの演奏を聴いていた。今までの彼の演奏も好きだったが、どこか音全体の迫力が増した気がする。
熱烈な恋は人を変えるのだろうか。僕にはその気持ちがよくわからなかった。
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