第2回です。
第一幕が終わり、俺は談笑する人々でごった返すロビーに出た。飲み物を買うためにマークとカウンターに並ぶ。
「Tokajiというワインは試したかい。フルーティーでうまい」
早速注文して琥珀色をしたワインを口に含む。デザートワインはあまり飲まないが、このワインはくせがなくて美味しい。
「今日のトスカはなかなかいいね。ハンガリー訛りがあるけどイタリア語もなかなかだ」
「さすがにヨーロッパは音楽の水準が高いですね」
偉ぶる大学教授は嫌いだが、この男には好感が持てた。
恋人カヴァラドッシが処刑され、トスカが身を投げるシーンで第三幕が終わり、出演者が満場の拍手で迎えられた。トスカ役の女性を先頭に、アンコールで何度も観客の前に姿を現し、喝采を浴びている。
(来てよかったな・・・)
席を立とうとすると、マークが声をかけてきた。
「クリス、近くでワインでも飲んでいかないか」
どのみち宿に帰っても寝るだけだし、この男の誘いに乗ることにした。
劇場近くのバーは、観劇を終えた客でごった返していた。外のテラスで心地よい夜風に吹かれる非日常の瞬間を、俺は満喫していた。
「お相手が美しい女性じゃなくて悪いが、つきあってくれてありがとう」
ワインリストを手にしてマークが礼を言う。
「いいえ。今日のオペラはなかなかよかったですね」
「そうだな。クリス、明日の予定は?」
「まだ決めてない。温泉に行ってみようと思うんだけど、いいところを知りませんか?」
日本から持ってきたガイドブックにいくつか温泉が載っていたが、いくつもあってどこに行くか決めていなかった。
「温泉はいいぞ。ゲッレールト温泉は広くて建物も美しいしおすすめだ。ただキラーイ温泉には行くなよ。男性専用の日はゲイのハッテン場になる」
ハッテン場?何だか日本の新宿2丁目あたりを彷彿とさせる。
「はあ・・・」
何と返していいのかわからなかったが、とりあえず旅先ででトラブルは御免だ。
「ドライな赤ワインを頼もう。酒がうまくて歴史のある国は好きだ。日本には一度も行ったとこがないけれど、いつか訪ねてみたい。東京にいいオルガンがあるらしいからね」
マークがワインリストから慣れた様子で赤ワインを選び、ウェイターに注文した。
「ブダペストには何度か来ているのですか」
「ああ、昨日はブダペストで私のオルガン演奏会があったんだ。明日ミュンヘンに発ってもう一つ演奏会を予定している。君はどうするんだい」
そういえばドイツの宿探しをしないといけない。
「僕も明後日の便でミュンヘンに行きます。どこかのユースホステルに泊まろうかと思って」
「予約はしてないのかい」
「行き当たりばったりの旅なんです。ただこの時期ユースは混んでいて、まだどこに泊まるか決めていないんです」
マークは一瞬考えた後、こう切り出した。
「ミュンヘンのホテルでツインをとってるんだが、私には連れがいなくてね。もし泊まる先が決まらなかったら来ないか。ミュンヘン中央駅のすぐ傍だ」
「そんな、いいんですか」
びっくりした。見も知らぬ男が部屋を提供してくれるなど、信じられなかった。
「一人旅だからね。こうやって一緒に酒を飲む相手が欲しいんだ」
そう言うとミュンヘンのホテルの住所のメモを渡した。
「ありがとう」
ウェイターが運んできたTelekiというワインの栓を抜く。
「私はいつもハンガリーで何本かワインを買って帰るんだ。荷物は重くなるけどね」
それから俺の仕事の話やLAの話、彼の勤める大学の話などをしているうちに、二人でワインを一本空けてしまった。
「さて、明日のフライトを寝過ごすといけない。今日はこの辺でお開きにしよう。今日は付き合ってくれてありがとう。またミュンヘンで会いたい」
「こちらこそ。ワインをご馳走になったし、また連絡してください」
俺はメールアドレスを書いた紙をマークに渡し、ほろ酔い気分で宿に帰った。
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「Tokajiというワインは試したかい。フルーティーでうまい」
早速注文して琥珀色をしたワインを口に含む。デザートワインはあまり飲まないが、このワインはくせがなくて美味しい。
「今日のトスカはなかなかいいね。ハンガリー訛りがあるけどイタリア語もなかなかだ」
「さすがにヨーロッパは音楽の水準が高いですね」
偉ぶる大学教授は嫌いだが、この男には好感が持てた。
恋人カヴァラドッシが処刑され、トスカが身を投げるシーンで第三幕が終わり、出演者が満場の拍手で迎えられた。トスカ役の女性を先頭に、アンコールで何度も観客の前に姿を現し、喝采を浴びている。
(来てよかったな・・・)
席を立とうとすると、マークが声をかけてきた。
「クリス、近くでワインでも飲んでいかないか」
どのみち宿に帰っても寝るだけだし、この男の誘いに乗ることにした。
劇場近くのバーは、観劇を終えた客でごった返していた。外のテラスで心地よい夜風に吹かれる非日常の瞬間を、俺は満喫していた。
「お相手が美しい女性じゃなくて悪いが、つきあってくれてありがとう」
ワインリストを手にしてマークが礼を言う。
「いいえ。今日のオペラはなかなかよかったですね」
「そうだな。クリス、明日の予定は?」
「まだ決めてない。温泉に行ってみようと思うんだけど、いいところを知りませんか?」
日本から持ってきたガイドブックにいくつか温泉が載っていたが、いくつもあってどこに行くか決めていなかった。
「温泉はいいぞ。ゲッレールト温泉は広くて建物も美しいしおすすめだ。ただキラーイ温泉には行くなよ。男性専用の日はゲイのハッテン場になる」
ハッテン場?何だか日本の新宿2丁目あたりを彷彿とさせる。
「はあ・・・」
何と返していいのかわからなかったが、とりあえず旅先ででトラブルは御免だ。
「ドライな赤ワインを頼もう。酒がうまくて歴史のある国は好きだ。日本には一度も行ったとこがないけれど、いつか訪ねてみたい。東京にいいオルガンがあるらしいからね」
マークがワインリストから慣れた様子で赤ワインを選び、ウェイターに注文した。
「ブダペストには何度か来ているのですか」
「ああ、昨日はブダペストで私のオルガン演奏会があったんだ。明日ミュンヘンに発ってもう一つ演奏会を予定している。君はどうするんだい」
そういえばドイツの宿探しをしないといけない。
「僕も明後日の便でミュンヘンに行きます。どこかのユースホステルに泊まろうかと思って」
「予約はしてないのかい」
「行き当たりばったりの旅なんです。ただこの時期ユースは混んでいて、まだどこに泊まるか決めていないんです」
マークは一瞬考えた後、こう切り出した。
「ミュンヘンのホテルでツインをとってるんだが、私には連れがいなくてね。もし泊まる先が決まらなかったら来ないか。ミュンヘン中央駅のすぐ傍だ」
「そんな、いいんですか」
びっくりした。見も知らぬ男が部屋を提供してくれるなど、信じられなかった。
「一人旅だからね。こうやって一緒に酒を飲む相手が欲しいんだ」
そう言うとミュンヘンのホテルの住所のメモを渡した。
「ありがとう」
ウェイターが運んできたTelekiというワインの栓を抜く。
「私はいつもハンガリーで何本かワインを買って帰るんだ。荷物は重くなるけどね」
それから俺の仕事の話やLAの話、彼の勤める大学の話などをしているうちに、二人でワインを一本空けてしまった。
「さて、明日のフライトを寝過ごすといけない。今日はこの辺でお開きにしよう。今日は付き合ってくれてありがとう。またミュンヘンで会いたい」
「こちらこそ。ワインをご馳走になったし、また連絡してください」
俺はメールアドレスを書いた紙をマークに渡し、ほろ酔い気分で宿に帰った。
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